世界は深い藍色

日記、雑感、音楽

ロックバンドの美しい音楽が鳴り終わって、残響はそむけた横顔の記憶

エフェクティブで緩急のある太く爆発的なギター、全ての曲を応変に活かすグルーヴを鳴らすリズム隊、美しい容姿と美しい声、そして荒ぶるエモーションをも表現出来るボーカルが揃った大好きな素晴らしいバンドのライブショーが終わって、もう自分の齢にはそぐわない沢山の涙のせいで、とまらない鼻水をティッシュペーパーで拭いながら、コインをビールに替えて飲みながら平然を装って彼女に声をかけた。

これからは以前のように普通の友達以上に近づかないよう気持ちを整えて。

「すぐ帰るの?ご飯行く?」

首を横に降ったあと彼女はいきなり泣き出した。

すぐに顔をそむけて泣き顔をほとんど見せなかった。

彼女らしいな、と思った。

僕は「ごめん、ごめんなさい…」と頭で考える前に謝っていた。

ご飯に誘った。

いつものように皆でご飯に行くのではなくて、2人で話したかったからほかの友人にまたねと挨拶をして2人きりになった。

彼女の車に向かうとき僕は子どもみたく声を出して泣いてしまった。

彼女の涙とその前のライブで流した涙のせいで、もう涙腺は開いていた。いつも以上に感情的だった。

家族連れで沢山の近くのレストランに入り、泣き止んだ僕らは少しずつまた心を溶かしながら、思っていることを話した。

好意をもってから時々、彼女に可愛いと伝えるといつも「目悪いんじゃない?だいじょうぶ?」なんてふざけて謙遜するけど真ん前に座っている泣いたあとの彼女はいつも以上にとても可愛くみえた。

僕は結局、色々とオフザケ言って笑ったりしながら、少しずつ思っていることを話して、彼女も思っていることを話した。

僕らはこれまで何度もケンカをして罵り合って、だけどこうやって仲直りして、たくさん笑って、

僕はいつの間にかそんな関係性を一方的にとてもとても愛おしく感じて彼女をとても愛するようになってしまった。

彼女が「私浮気症だからー」なんて話すことや、だけど学生みたいなうぶなことを突然友達に聞いたりすることが、とっても不思議で魅力的で、自由奔放で決して自分を特別と思わせてくれない、とにかくいつも僕をモヤモヤさせる大きな存在になってしまった。

そもそもぼくとこれほど仲良くしていることが既婚者としてはおかしなことではあるのだけど、僕はなぜか、頭に彼女の夫を思い浮かべることなどなく、別な誰かに嫉妬しながらずっと彼女を思っている。

最後には冗談を言いあって笑いながら家に送ってもらい別れた。

「泣いたら負けだと思って」

「だけどライブ前から泣きそうで」

僕は「どうして泣いたの?」と尋ねた。

「腹立ってさ!」

僕は彼女の言葉の真意はなにもわからない。

今も僕を大切に思ってくれていたから流した涙なのか、もしかしたらほんとうに不安定で勝手に爆発して迷走する僕への怒りのみなのでは、なんて思ったりしてしまって、

彼女は素直に全部吐き出して生きているのか、実はなにもかもかくしているのではなんて思ってしまったりもして、結局僕は全く何もわからない。

だけど、少なくとも僕が泣きじゃくった理由は、彼女が泣いた時に僕は僕が思ってるよりずっと彼女は僕を思ってくれていたと感じて、ごめんなさい、ごめんなさい、大好きなのにごめんなさい、って考えて涙が止まらなかった。

帰りの車中落ち着いた僕はまた彼女の真意を見失って苦しくなりながらも、とっても好きな気持ちはどうしても消せそうにないとも思った。

別れ際僕らはキスをした。唇をよけて頬をあてた彼女に、イヤだと言って、二度目は唇を押し付けた。ガムを噛む彼女の唇に少しだけ舌をいれた。彼女と同じガムの味がして僕は十分に幸せに感じた。

これが特別な関係なのか彼女にとってはさほど特別でもないなのかいまも全然わからない。

だけど前に書いたような彼女が僕を蔑ろにしているような思いはあの涙で全て流れた。新しい深い愛情でより気が狂いそうになってしまった。

 

そして、

それから数日一切の連絡もなく僕は彼女のことを思いながら相変わらずモヤモヤしながら過ごしている。